女性幹部活用法
最優先すべき人事組織改革
一流の女性幹部・外国人幹部を獲得して
生産性を上げ、グローバル競争に勝つ
実行すべき改革
1.一流の女性幹部・外国人幹部を獲得し、経営改革の中枢メンバーとする
2.外部から獲得する人財には、ジョブ型を導入し人財活用を図る。
3.女性幹部・外国人幹部が定着できるように、シニア人財を活用する。
1.一流の女性幹部・外国人幹部を獲得し、経営改革の中枢メンバーとする
「ダイバーシティ経営」とは、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営である。2013年から経済産業省もダイバーシティ経営を実施している企業を表彰する取組みを行ってきているが、日本企業の多くは、いまだに女性幹部や外国人幹部を活用しきれていない。
2020年7月1日時点で東証「1部」上場企業の女性取締役は延べ1,354人(前年比240人増)で、全取締役に占める割合は7.1%。このうち、社外取締役が1,123人(8割)、社内登用の女性取締役は231人(2割弱)。
日経225採用の上場企業の外国人取締役の比率は3.3%(2018年時点)。
日本の女性幹部、外国人幹部は、諸外国と比較して圧倒的に少なく、人材の多様性はほとんど進んでいない。
日本で昭和の高度成長期に人材の均質性追求で「効率」を高め利益をあげた社会モデルが崩壊し、少子高齢化が進み価値観が多様化した今、多様性を追求することで競争優位を確立しようとするダイバーシティ・マネジメントが不可欠である。これは、政府も推進しているとおりである。
女性幹部や外国人幹部が活躍する企業の業績は高いというデータは、豊富に存在している。
ダイバーシティ経営のメリットについては数多くのデータが存在しているにもかかわらず、いまだ多くの日本企業で、人材の多様性が進まない主な理由は以下の3つと考える。
1)決定権を持つ男性中心組織が、自己に不都合な改革を本気で実行しない。
2)一流の女性幹部や外国人幹部人財は、年功序列的処遇を好まず、ジョブ型を導入しないと獲得できないのに、依然としてメンバーシップ型のしくみを継続している。
3)外部から獲得した女性幹部・外国人幹部は圧倒的少数派のため孤立化し辞めていく。
より本音ベースの理由は以下の3つであろう。
1)外部から一流人財が入ってくると既存社員の処遇・昇進に不都合、あるいは幹部の将来ポストが奪われるリスクがある。
2)部下が自分より優秀であると、自分の無能さが露呈してしまう。
3)価値観の異なる人財が入ってくると、コミュニケーションが面倒。英語ができないためコミュニケーションができない。
本気でイノベーションを生み出し生産性を向上させる多様な人財を活用していくには、どうすればよいのか。
まず、経営陣が本気で改革に取り組む姿勢が何よりも大切であることは言うまでもない。次に改革に必要なミッションを達成できる経験と実力を持った人財が必要だ。しかし社内の人員は、人間関係や過去の因習や歴史などのしがらみに囚われ、自社以外での経験も乏しいため、改革を推し進める役を担うことは難しい。
改革を実現するには社外から人財を登用すべきである。そしてこの改革ミッションを担う人財は、一流の女性幹部や外国人幹部を登用すべきである。なぜならば、トップに女性や外国人など多様な人財が活躍すれば、優秀な若手にも魅力的な組織だとアピールでき、多様な若手人財も獲得しやすくなるからだ。同時に一流の女性幹部や外国人は、社内の若手女性・外国人のロールモデルにもなり、ますます優秀な若手人財が獲得しやすくなるからだ。外部から人財を登用する場合、自社社員と似通った属性の男性では、全く意味がない。
<一流人財の獲得に失敗した実例>
以下、実際にあった企業の例をあげる。
ある東証一部上場企業(電気)は、重要経営戦略の一つとして、全グループ会社のガバナンス改革を宣言している企業だ。この企業は典型的な日本の大企業で、新卒で採用されたのち自社のみで就業を継続し外部の会社経験がゼロの人財が大半をしめる企業だ。この企業では法務部門のグローバル化に重大な危機感があり、グローバルガバナンス体制の構築、リスク管理体制の強化、海外支社のガバナンスに精通するバイリンガルで海外の弁護士資格保持者のニーズが急務であった。
社内には必要とされる経験を持つ人財は存在しなかったため、外部から招聘する以外ミッションを達成することはできない状況であった。そこで当社はヘッドハンテイングした一流の経験と実績をもつ女性幹部を紹介した。企業が望む条件をすべて備えた完璧な女性幹部であり、すぐにでも入社して欲しいと言われた。にもかかわらず、条件交渉で合意ができず、企業は稀少な人財獲得を逃すことになった。
企業がこの人材を獲得できなかった理由は、このポジションはこの企業の生死を分けるような重要なミッションを担う重要任務であるにも関わらず、既存の法務部組織の1スタッフとして本候補者を取り込もうとしたためだ。会社の存続にもかかわるような重要な任務であるならば、経営改革の中枢メンバーとして招聘すべきであった。外部から一流人財を登用し重要なミッションを担わせるのであれば、トップ経営陣の直下に新しい部門を創設してミッション遂行を経営陣も強力にバックアップすべきであった。
多様な人財の登用が進まない本音の理由がここでもあてはまる。採用の最終決定権をもっていた幹部と役員は共に英語が得意でなく、自分より優秀な人財が入ってくることで
将来の自分のポストが奪われるリスクがあった。なるべく経営中枢から遠い既存部門下に一流人財を配置し、自己ポストの安泰を確保しながら改革の成果だけ取得したかったということがオファー条件から読みとれた。
<一流人財の獲得に成功した例>
次に一流人財獲得に成功している企業例をあげる。
ある東証一部上場企業(建設業)は歴史の長い伝統を重視するカルチャーをもつ企業。様々な部門で時代に合致した改革を断行しなければならなかった。当社が紹介した外国人幹部を、既存の組織の一員にはめ込まず、社長直下の経営改革中枢のメンバーとして起用した。その結果、既存の社員では不可能であった改革を数多く実現し、現在も継続している。
<当社からの提言>
日本企業は外部から人財を登用する際に、既存の組織体制の中にはめ込もうとする傾向が強い。このやり方では、どんなに一流の外部人財でも成果を十分に出すことは難しいだろう。なぜならばジョブ型で成果を出してきた一流外部人財と、終身雇用制度に守られたメンバーシップ型雇用に慣れ親しんだ既存の社員とは、メンタリティーが全く異なるからだ。
既存社員は新卒で採用され、メンバーシップ型の年功序列で処遇・昇進を繰り返し、目標としていたポストを目前にした時、そのポジションに外部から自分より優秀な人財が入ってくることには壮絶な拒絶感がある。企業として本気で改革を成功させたいならば、社長直下の経営改革チームを立ち上げ、既存の社員とバッティングしないようにし、ミッションを明記したジョブ型で外部一流人財を雇用し、経営改革の中枢メンバーとして迎え入れるべきだ。
2.外部から獲得する人財には、ジョブ型を導入し人財活用を図る
2020年1月に経団連が提示して以来、「ジョブ型雇用」(参照1)への関心が高まっている。
既にジョブ型雇用の導入を宣言した企業は、日立製作所、富士通、NEC、資生堂、オリンパス、KDDIなど。今後も増え続けると予測される。
(参照1)
「ジョブ型雇用」とは、労働問題の第一人者である濱口圭一郎氏(労働政策研究・研修気候労働政策研究所長)によると、採用時から職務、勤務地、労働時間などを明確化した雇用契約を結び、その範囲内でのみ仕事を行うという欧米をはじめ世界中で標準の雇用システムを指す。
これに対し「メンバーシップ型雇用」とは、入社や新卒一括採用制度に象徴されるように職務を限定せず企業共同体のメンバーとして迎え入れ、担当する仕事は会社の命令次第という昭和の高度成長期に定着した日本独特の雇用制度である。
濱口氏によれば、ジョブ型雇用は、産業革命後の欧米社会で長い時間をかけて形成された雇用モデルであるのに対し、メンバーシップ型は高度成長期の日本で定着した雇用制度である。メンバーシップ型は昭和時代の高度成長期に定着した制度であり、デジタル化・AI化・少子高齢化と社会が激変し様々な問題が噴出しており、それを解決するためにも2018年以降日本経済団体連合会もジョブ型雇用への転換方針を打ち出している。
(参照1:日本経済団体連合会「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」)
それぞれの雇用制度の特徴をまとめると、以下の表1のようになる。
ジョブ型 | メンバーシップ型 | |
職務の範囲 | ジョブディスクリプション(職務記述書)により明確に特定されている | 限定されておらず、職務はローテーションにより変化する |
採用方式 | 中途(随時)採用、経験者採用 | 新卒一括採用、ポテンシャル採用 |
雇用制度 | 多様な雇用形態 | 終身雇用が原則 |
組織形態 | フラット型 | ピラミッド型 |
人事異動 | 原則なし | 会社都合の異動あり |
賃金報酬 | 職種・職責に応じ決定 | 年功序列を重視し決定 |
賃金格差 | 職責・職務により有り | 同期では無いのが基本 |
労働時間 | 柔軟 | 長時間労働が発生しやすい |
人財の多様性 | 高い | 低い |
取締役会の多様性 | 多様性を実現しやすい | 多様性を実現しにくい |
昭和時代の高度成長期に定着したメンバーシップ型雇用制度は、長時間労働、サービス残業、過労死、うつ、ブラック企業化など、色々な問題を引き起こして現在に至っている。今、ジョブ型雇用が注目されているのは、このような問題解決のためだけではなく、もっと深刻な企業としての生き残りをかけた重篤な問題があるからだ。
ジョブ型雇用が必要とされている背景は、端的に3つのキーワードで表現される。
1)グローバル化
2)デジタル化
3)価値観の多様化
企業を取り巻く環境が激変しているからだ。
1)グローバル化
海外売上比率を高めていかなければならないグローバル企業にとって、本社はメンバーシップ型雇用、海外拠点はジョブ型雇用と異なる雇用制度を採用しているのでは、スピーデイにグローバルレベルでの人財活用ができないという弊害がある。熾烈なグローバル競争に勝ち生き残るためには、海外拠点に散在している全従業員が持つタレント(英語で「能力・資質・才能を意味する)やスキル、経験値などの情報を人事管理の一部として一元管理することによって組織横断的に戦略的な人事配置や人材開発を行う、経営戦略に沿った迅速な人事戦略が不可欠になってきた(タレントマネジメント)。それゆえ、グローバル化が必須な企業は、本社こそ世界標準であるジョブ型雇用に変更すべき必要性がある。
加えて外部から、グローバル企業で経験豊富な一流の女性幹部や外国人幹部を獲得する必要がある際には、ジョブ型雇用で獲得すべきである。前述の比較表のとおり、実力のある一流人財は、年功序列の評価を嫌い、年齢・性別・国籍を問わない実績による評価・処遇するジョブ型で採用する外資系企業へ流れていってしまうからだ。
日本にある外資系企業では、非常に優秀なバイリンガル日本人女性、外国人幹部が多く活躍している。日本に進出している外資系企業の多くは世界的にもグローバル化に成功している最先端の企業が多い。とくに日本企業は人事と法務の分野のグローバル化が非常に遅れている。具体的には人事では、グローバル・タレントマネジメントの経験者、法務では、世界レベルでのグローバル・ガバナンス経験者は、日本企業には皆無と言っていいほど経験者が不在だ。これらの分野をいち早くグローバル化するためには、中途採用で彼らを獲得するのが、もっとも効率的である。そのためにも、中途採用で一流女性幹部、外国人幹部を獲得するためには、ジョブ型雇用を導入すべきだ。
このようにグローバル化を推進しなければならない企業にとっては、このままメンバーシップ型雇用を継続し続けることは企業として死活の問題になるはずだ。
2)デジタル化
デジタルトランスフォーメーションを牽引するテクノロジー人財は、世界中で最も獲得競争が熾烈な人財である。魅力的な待遇やキャリアパスを提示しなければ獲得が最難関である。年齢・勤続年数により評価されるメンバーシップ型雇用では全く太刀打ちできないことを痛感してきた日本企業が、生き残りをかけ決死の覚悟でDX化を進めるためにジョブ型雇用制度への変換が不可欠となっている。
3)価値観の多様化
グローバル化とDX化が進むほど、人々の価値観の多様化も進んでいる。従業員の働き方に対する価値観も変化してきており、コロナでテレワークの浸透が一気に進んだように、コロナ終息後にはさらに多様な働き方を趣向する人々が出現してくると推定される。ジョブ型雇用はこのような多様な価値観により合致した雇用制度である。なぜならば人事異動も本人の意志を重視し、労働時間も柔軟で、組織形態もフラット型だからだ。
多様な価値観を持つ次世代の人財にとってジョブ型雇用は、メンバーシップ型雇用より魅力的であるため、これらの人財層を獲得するためにも企業はジョブ型雇用への変更を迫られている。
3.女性幹部・外国人幹部が定着できるように、シニア人財を活用する
これから採用する外部人財はジョブ型雇用で採用するとしても、新卒で採用されて以来メンバーシップ型雇用制度に慣れ親しんだ既存社員をどうするかという問題がある。特に50代以上のシニア人財が問題になる。彼らは年功序列での評価制度に慣れ親しんでいるが、正直これから多くの日本企業は、年齢・報酬だけが高く生産性が低い人財を抱え込む余裕はない。このシニア人財は、高い生産性が必要な最先端の現場ではなく、別の活用方法を提言する。
シニア人財の最大のメリットは会社のカルチャー、歴史に精通していること、社内のネットワークの広さである。一方、中途採用された一流の女性幹部・外国人幹部は、シニア人財が持つメリットについては当然ながら持ち合わせていない。今まで日本企業で多様な人財が定着してこなかった理由は、採用後、多様性を重視した自己責任によるキャリア形成のためのしくみ体制が全くなかったからだ。多様な人財の活用は、多様な人財を受け入れる土壌も同時に強化していかなければならない。(Diversity and Inclusion)
<外国人幹部活用が失敗した実例>
ある大手化粧品企業では、グローバル化の推進のために10年以上前から多様な人財を活用する方針を打ち出し、外国人幹部を積極的に採用してきた。しかし10年経った現在、ほとんど全ての外国人幹部が定着せず去っていった。
弊社では同企業に7年前に招聘されたある外国人幹部にヒアリングした。
「経営トップは外国人幹部を採用さえすればグローバル化できたと考えていたようだ。既存の日本人部下も突然上司が外国人になり戸惑っていたのと同時に、ジョブ型雇用で採用された上司について来ることができなかった。経営トップは、幹部なのだから部下とのコミュニケーション問題は私が自分ひとりで解決すべきだと考え、カルチャーの違いに戸惑った時でもサポートやアドバイスを求めたが得られなかった。他の部門で採用された外国人幹部も一人またひとりと辞めていき、自分も最後まで何とかしようと努力したが、企業自体にインクルージョン(Inclusion:多様性を受け入れる)の概念がなく残念だった。」
また次のようにも述べている。
「この企業はダイバーシティも進んでいるオープンな企業としての外部評価は高い。しかし、現実は新卒から採用されている社員が大半をしめ、ほとんどの社員はメンバーシップ型の終身雇用、年功序列のマインドセットで仕事をしている。ここに外部から一流女性幹部や外国人幹部をポンともってくるだけでは、海外で言われている真の意味でのグローバル企業にはなれない。」
外国人幹部も女性幹部も獲得はしてみたが、定着しないで辞めてしまう、このような課題を持っている経営者は非常に多い。日本企業は、前例の企業のような間違いを長年継続してきた。どうしたらよいかノウハウがなかったからだろう。
そこで弊社の提言として、既存のシニア人財を活用することをあげる。外部から採用した一流の女性幹部、外国人幹部が定着できるように、このサポートを専属でするシニア人財を社内でまず抜擢する必要がある。社内のカルチャー、歴史に精通し、社内のネットワークが広く、愛社精神があり、ダイバーシティ&インクルージョンは何のために実行しなければならないのか正確に理解している人財を抜擢する。このシニア人財チームを増やすことで、より多くの多様な人財の受入も可能となっていくだろう。シニア人財にもジョブ型の目標管理設定などを実施して成果に応じた報酬を支払うという制度を導入するのが良いのではないか。